『はるばるここまで』辻仁成

毒も食らわば皿まで、の心境で読んでいた『新潮』だったが、事前の予想に反し面白かったという事はなく終わり。
最後まで独白でこれだけの長さをものにするのだから、やはり小説家としてそれなりに力は感じるのだけど辻仁成辻仁成なのである(なんのこっちゃ)。
個人的には子供が純真さを付与されて出てくるだけで冷めてしまうのだが、それは置いておくとしても、この主人公がうそ臭い。
もちろん、うそ臭いといえば、何の合いの手も無く一気にこれだけ、しかも記憶力が減退している人間がしゃべるわけが無いのだから、根本的にうそ臭いのだが、それは小説的うそ臭さとして、これも置いておくとしても、廃墟みたいな団地に住んでいたとか人の気配が無いとか言っておきながら「存在感だけが団地を覆っている」とか、そんな文学的表現がでてきたりするところが何とも、なのだ。レスラーだろう?
もうひとつ引いてしまったのが、少年と二人きりで夜景を眺めながら少年に優しい台詞を投げかけられているのに、そんなシーンで目の前の少年を差し置いて、昔死んだ息子を思い出して、息子にそれ言われたかったなんて思ったりするところ。心無いよなあ。
だからラストがいくら綺麗でも引きっぱなしです。
このプロレスラーの元妻がインテリだったりするその出来すぎた話作りについても、なんかヒロイックな感じがして、このレスラー、息子に死なれていながらちっとも悲惨さを感じさせないんだよね。あーせいぜい自分に酔ってればいいじゃん、と。