『少女煙草』赤染晶子

確実に自分の世界、スタイルというものを持っている人だな、とは思う。今作も、紙のうえに完璧にひとつの、我々が暮らす世界とは別の世界を作り上げることに成功しているように思う。こういう世界がジャストフィットする人はとても気に入るのではないだろうか。言葉も、簡単な言葉を使いながら練り上げられて無駄がないし、登場人物が誰もが魅力的。
また、いつだって何にもなりたくなんかない、成長したくない決断できない人間としての、そしてそういう人間だからこそ何十年もただ流されて生きてきた人間としての、老いた少女=主人公にシンパシーを感じる人は沢山いるだろう。そういう主人公が、売る女と堅い女の間を行ったり来たりするという話し作りも、主人公をテーマに沿わせる形でよりくっきりと小説という舞台のなかで浮かび上がらせている。
とくれば、もっと評価が高くなりそうなものだが、私にとっては、いわゆる非リアリズム系の純文学として、いかにも標準的な出来栄えの作品という気がしてしまう。うまくまとまり過ぎていて、どこかもう少し過剰な部分を求めてしまうのだ。たとえば、畳をバタンと叩いて持っていく所の描写なんかがとても面白かったのだが、突き抜けそうな面白さといったらほぼこの一箇所くらいしか今思い出せない。前作同様、一年くらい経つと内容のほとんどを忘れてしまっているかもしれない。
それに非リアリズム系の作家で、同様に、ひとつのモチーフをしつこいくらい繰り返しながら、アナザーワールドを作り上げる作家としては鹿島田真希がすでに居て、質量ともに鹿島田が上なのはもちろん、どこかしら過剰さも備えている。