『俺俺』星野智幸

オレオレ詐欺をそのまま扱ったかような題名ではあるが、中村文則的なたんなるリアリズム系の悪人ものではない。「なりすます事」に焦点をあて、元々詐欺などするつもりもない人間がなりすましただけのつもりが、実際に「なって」しまう。リアリズム系しか読めない人はここで頓挫しちゃうのかもしれないけど、まずは、これは「なりすます」という非道な事に対する最高の批評だよな。
そしていま、オレオレ詐欺をこれだけの犯罪とすることを可能にした親と子の断絶にもしっかり目を向けている。しかも「なりすます」人間もまたが断絶しているのだ。親子の断絶につけこむ人間もまた断絶している。おそらく彼らは自ら断絶しているからこそ、罪の意識も軽くあるのだろう。他人の親から金を騙し取っているが、取っている相手は自分の親でもあるのだ。
そのなりすましたときの会話はもちろん、拾った携帯の主のメールの空虚さとか、カメラ店での店員同士のいざこざとか、どこか殺伐とした感じを与えていて、同時代を生きるものとして、こりゃ「現実」に迫ってるよな、と思う。実際はどうかなんて事は関係なくね。
この文体がもう空気を捉えているんだろうなあ。ちょっとこれは曖昧にすぎる言い方だけど。