2009-06-09から1日間の記事一覧

『空のかなたの坊や』ニーナ・サドゥール

ソ連という国は腐っても共産主義国であったわけで、何より正しいあり方を標榜していたわけで、少なくとも公には民族間差別は徹底して否定されていたのだろう。そのかわり「正しさ」が大手を振るってしまって、こんどは知識層とそうでないものの差別が生じた…

『『月』について、』金井美恵子

私にとっては、文章を読解する訓練としてだけの意味しかない作品。意図して読み辛いように書いているとしか思えないから。 読みやすい文章=日本語の自然さに抵抗する意義だって文学にはそりゃあるだろうから、このくらいの長さなら読んでもいいかなとは思う…

『俺俺』星野智幸

オレオレ詐欺をそのまま扱ったかような題名ではあるが、中村文則的なたんなるリアリズム系の悪人ものではない。「なりすます事」に焦点をあて、元々詐欺などするつもりもない人間がなりすましただけのつもりが、実際に「なって」しまう。リアリズム系しか読…

『終の住処』磯崎憲一郎

いっけん普通の純文学−近代的自我の独我的自分語りのようにみえてそうではない。この作家はいつも、とても長いパースペクティブで、物事を捉えようとしているのではないか。とても長いというのは、たんに近代史とか現代史という話ではなく、人類史、地球史的…

『すき・やき』楊逸

総じて言うなら主人公の恋愛場面の気持ちの描写がやはりなんとも平板に感じる。しかし中国からの留学生にポスト近代的な人間像を期待するのはそれはそれで違うのかもしれん。その一方で、韓国人男性との絡みなどが描かれていて、やや小説的に面白く書かれて…

『新潮』 2009.6 読切作品ほか

先日信号待ちをしていたら、道路に財布が落ちていたので直ちに拾って交番にもっていきましたが、交番に人がいませんでした。結局、持ち主と連絡が取れるまで多少時間がかかってしまいましたが、こういう面倒くささのせいで、皆財布が落ちていてもわざわざ拾…