『すき・やき』楊逸

総じて言うなら主人公の恋愛場面の気持ちの描写がやはりなんとも平板に感じる。しかし中国からの留学生にポスト近代的な人間像を期待するのはそれはそれで違うのかもしれん。その一方で、韓国人男性との絡みなどが描かれていて、やや小説的に面白く書かれているきらいはあるが、読ませる部分もある。カタコト日本語のやり取りが面白い。こういう局面を描ける所にこそこの作家の強みがあると思う。
経済的に裕福でもないのに霜降りを買ってみたりという主人公の身勝手さからも目をそむけていない。(貧乏の人にかぎってこういう浪費するよなあ。私にとっては肉なんてトリムネで十分だけど。)また、すき焼き屋にくる客模様も、外人とみれば中国人だろうと英語でコミュニケーションしちゃう中年男性とか、水商売女性が前の男性が好んでいたスコッチを頼んだりとか、きちんとした観察眼も感じる。
さきほど「やや小説的に面白く書かれている」と否定的に言ったが、裏返せばサービス精神の表れでもあって、ちょっとあざといかなと思わせなければ悪いことでは決して無い。だから、物語の中心さえここまで単純でなければなあ、と惜しく思う。