『空のかなたの坊や』ニーナ・サドゥール

ソ連という国は腐っても共産主義国であったわけで、何より正しいあり方を標榜していたわけで、少なくとも公には民族間差別は徹底して否定されていたのだろう。そのかわり「正しさ」が大手を振るってしまって、こんどは知識層とそうでないものの差別が生じた、そういう事がよく分かる作品で、高地民族とロシア人とのディスコミュニケーションぶりが面白い。高地民族も正しさを盾にするのだ。
また、科学という正しさがどれだけ人間を空虚にさせてしまうかというのも大きいテーマではある。ソ連のような国では尚更それは深刻だっただろう。かといって擬似的な科学に嵌ってしまうのはより最悪なんだけど。