『IT業界 心の闇』木下古栗

この作品のまえに読んだ2作が、はっきりしたコンセプトを感じさせる完成度の高い作品だったのに比べると、正直一段落ちるかなあ。あるOLが上司に頼まれてその妻に、上司の浮気相手のになりすまして謝りに行くという話なのだが、無茶苦茶な展開が、ただ無茶苦茶なだけ、に思えてしまうのだ。題名となっている「IT業界」ともあまり関係がない。
ただ、IT業界と関係がないというところがポイントではあって、主人公はOLなのだが実際のOLとはかけ離れているのもそれと同じこと。「IT業界」だとか「OL」だとかの言葉が、実態と離れた、受け手送り手に都合のよい内容のものとして玩具的に流通しているということへの、またある程度はそれは仕方ないにしても、その流通を反省しようとしないメディア界隈への、この小説は批判なのだ、と受け止めることは可能ではある。で、自らメディアのおもちゃとして振る舞う某脳科学者などは、対象としてはストレートに繋がっているのも、確かに。私もこの人が、大津のいじめの件でラジオで、極めて通俗的な、専門分野と全く関係のないことを熱心にしゃべっていたのを聞いて、なんなんだろうなあコイツ、と思ったことがある。(でもそれでもラジオ聞くの止めなかったり、抗議のメールもしない私にも、少しはこの状況まねいた責任あるってことになるのか・・・・・・。)