『ハルモニア』鹿島田真希

肝心の芥川賞受賞作品を読んでいないのだが、この作品久しぶりに、群像の「ゼロの王国」以来になるか、面白いと感じた。たぶんご本人は一貫して書いているつもりなんだろうけれど、作品によってはどうにも設定にしっくりこなかったりもして、言ってみればつかみどころがないなあ、という感じだったりで。
この作品は例によって、頭でっかちで図式的な、人間や人生についてのあーだこーだを先行させて登場人物が右往左往するのだが、こういう、いかにもらしいところ、近代的自我というものは、まだまだ探れていけるものなんだよという所に加えて、この作品では、そこでもたらされる結論ではなく、過程こそが右往左往こそが生なんだよ、と言っている気もして、感動すら覚えた。物語ではなく、思弁を中心にしてこれだけ読ませる作家も少ないだろう。