『長い緑の茎のような少年』伊井直行

直接的な記述もあるくらいの震災小説。当時の平衡を欠いたような、微妙にずれたような雰囲気をたしかに上手く伝えてはいるものの、ほかになんか何か伝わってくるものがあったかというとやや否定的だ。
読者の興味を失わせないような話の運び方や、ギタリストなど、それなりに魅力的な人物もいて、決して嫌いではないんだが、継母にはあまりリアリティ感じないし、そもそも震災から相当期間たった今となっては「(人が)震災で壊れる」ということが、それってどうなの?、という感じになってしまってはいないか。そういう小説は絲山秋子だって書いていたので微妙なんだが、少なくとも、いかにして希望というものを見出せばいいのか、みたいなのが基調になっていることに関しては、余計な御世話だといいたくなる。震災があってはじめて、あるいはそれを機に希望が失われた、なんてひとたちは、ある意味それまで多少の濃淡はあれ幸せではあったに違いないわけで、つまりは、今頃になって何をいまさら、なのだ。