『mundus』川上弘美

以前だったら、3、4年前だったら、即「つまらない」と切って捨てただろうけれど、なんつーか独特の面白さを感じる部分もあって、これは慣れなんだろうか。それに、こういうものは川上でなければ書けないというところもある。
人間らしさもあり、動物のようでもあり植物のようでもあり、モノのようでもあり、幽霊のようでもあり、といった性質をもつ「何か」を中心にして、それを取り巻く、昭和の一時期を思わせるような暮らしを描いているのだが、その「何か」を「得体の知れない」と書くと、色々描写はしているのだから、ちと違う。たんなる想像では出会えない、創造でしか出会えない「得体」を描いているといったら良いのだろうか。言葉だけでこういう世界に挑んで、読者が読者ならではの世界をまたそれぞれが対峙させるというのは、とても面白いことのように思う。いまのCGというのは、どんなものでも簡単に映像化してしまいそうだが、そういう直接性を得手とするメディアだって、むろんあっていいのだが、私の好みとしては、ちょっとそういうのは粋じゃないんだよなあ。
ただし、夢中になって読むちゅうほどでもないことは念のため書いておく。