『果樹園』堀江敏幸

私にとっての堀江敏幸初体験。わりとよく書けたリアリズム系中篇である。老年に差しかかったときに休職を余儀なくされた男性が二匹の犬を散歩させながら、自己を見つめなおす、といった内容である。
以上。
・・・って終わってもいいくらいあまりこの作品で書きたい事は少ないなあ。
福田和也が言うほどにはメルヘンというか現実から離れた感じはしない。もちろんたまたまこの作品の傾向だけ少し異なるのかもしれないけどね。衣料関係の職場につくことになったいきさつや、その内容自体も、その業界について詳しいというわけでは無いけど、だいたいこんなもんだろうと思うし、社員への格別の配慮も、いまだ中小企業なんて人のつながりで色々決まっていくであろう事は想像に難くないし。
情景描写もとくに凝ったところもない。
面白いな、というポイントは一つだけあって、それはずっと家族と離れて暮らしていた主人公が、休職することで老年に差し掛かる頃になって昔の家族がそのまままた復活するところの感触を語ったところだ。あまり違和も無く復活してしまう感じとか、そういう経験が私にはなくとも、ああ分かるなあ、と思った。
なんか私は家族だの、そういう卑近な関係を扱ったものの方が好きなんかもしれない。
それに比べて、題名にもなっている果実についての路上のあれこれや美容室のあれこれについては、とくに共感するところがなかった。犬についての主人公の思い入れたっぷりの記述も面白みを感じなかったし、飼い主の老夫婦のちょっと変わった人の良さもありきたりな感じだ。まあ、他の多くの小説よりはこういう細部はよく書けているしバランス感覚は良いのかもしれないけれども。
うーん。あえて求めてまで読むものでもないのかなあ、堀江敏幸