『パワー系181』墨谷渉

体にコンプレックス(劣等感ではなく複合感情)を抱く、大柄な女性とチビ男性の物語といったところか。女性はそのコンプレックスをポジティヴな方向に変えていくが、男性は醜い方向に発散させていく。
男性がそうなったきっかけは妻が流産になったことにありそうなのだが、そこはさらりと触れるだけとなっている。ここを重点的に描いてしまうとただの純文学になってしまうところもなきにしもあらずと思えば、それはそれでいいのかもしれない。
ただ、やはりパワー系の女性の内面については、これはさらりとし過ぎではなかろうか。いくらパワーに自信があるとはいえ、世の中には刃物もあれば飛び道具もあるし、クスリをやるような人もいれば、(関西方面ほど堂々としてないが)やくざだってもちろんいる。そういうなかで、防音処理を施したマンションの密室に、いきなりネットを見て電話をしてきた初対面の人とその日に2人きりになれるものだろうか。そこまで世間知らずでいられるものだろうか。出会い系によるトラブルなど近年さんざん報道されているのに、だ。
そこを承知で、このような商売をやるとなったからには、幾度もの逡巡と、それを超えさせる飛躍的な決断かもしくはきっかけとなる出来事などありそうなものだが。食事をする場所を決めるような程度のものではないだろう。
と考えてしまう私は、常識的にすぎるのだろうか。ただやはり、そうやって始めた商売で呼んだ客が異常なことを始めたときのパワー系の女性の反応もイマイチ物足りないのである。内面を一切描かないのではなく、描いているだけにその内容の中途半端さが気になる。この程度の驚きと洞察しかないんだろうか、と。
かたや、転がり落ちていく男の成り行きはよく描けている。小説の話の筋はこの男が中心であり、高速使おうか迷うところや目的地についてからの地元民とのやりとりなど、冷静さの欠き方が適度に浮かび上がっている。妻の強さにも事務の女性のてきぱきさにもやられ、自分にとって都合の良さそうな女性には会えず。悪く転がっているときは、悪いほうに世の中が動いてるように見えてくるんだろうなあ、という説得感はある。このへんが普通評価にした理由である。
あと、女性の商売客として測量男だけしか結局面白くなくて、このへん、もっといろんな訪問者がいてこちらの話も広がれば、とも思ったりした。