『はじまらないティータイム』原田ひ香

話に筋があり、読者を引っ張っていってくれる、そんな物語的マジックをこの小説は強く持っている。女性たちの性格的な色分けを強く出しすぎた面があって、ちょっと一面的かなという気もするが、そんな欠点も許せる気になってしまう。
卑近な話がテーマの中心でありながら、佐智子の趣味のような奇抜さを出してくれたのも面白かった。こういう出会ったことのないような話に出会えるというのも文学の良いところ。
ただやはりちょっと書かせてもらうと、最初は「努力」女性の一面さが気になったのだが、途中から他の女性のほうが分からなくなってきてそちらのほうが気になった。例えば「うまくやってきた」娘が、会って二回目の女性の前でいきなり泣いたりしてちっともうまくやってきた女性らしくないし、変な趣味の寝取られ女性も最後になって夫に未練がましくなったりして離婚がスムーズだったのは何で?とか思ったり。心配性で世話好きっぽい母親が最後になって達観したかのように「大団円」を演出したりするのもちょっと疑問だったり。
今まで一緒に暮らしていてうまくやっているように見えながら夫が実は味に無頓着だったり美容院で髪を切ってたり、というのと、あっさり離婚していながら背広の具合とかじつは夫のことを分かっていた、というのの対比もまたポイントなのかもしれないが、前者についてはあまり描く必要性を感じなかった。じつは知らない夫がいた、というのはありがちではあるし。
そこを描くくらいなら、もっと離婚への恐れや逡巡を、子供がいないことへの負い目や開き直りの描写に分量を割いても良かった、と思う。
何はともあれけれども、一気に読ませていただいた。大合格な感じである。



こうしてすばる文学賞を読んだ後にあらためて新潮新人賞を振り返ると、向うは1作品しか受賞がなく内容的にも・・・この差は何なんだろう。副賞の差なんだろうか。