『目覚めた後の夢』辻 仁成

短いという全くそれだけの理由で読んでみたが、意外と読めるので驚いた。少なくともこないだ読んだ議員のやつより読める。辻の小説をまあまあ読めると感じてしまうくらい最近はひどいものを読んでたという事だろうか。だとしたら、ちょっと暗い気持ちになる。
青年がレイシズムに至った動機(社会的弱者である自分)とかはありきたりだし、暴力を働いたあとの悔恨にしても(神の光が出てくる部分を除いて)凡庸な描写だ。が、もともとこの種の暴力を扱うのは文学では難しい所がある。主人公の内面に共感させようとすれば、「自分でもよく分かずやってしまった」と自省するしかない、みたいな。
暴力を働いた青年の反省につけ込み操ろうとする人物を登場させたことで、その、ちょっと分からない感じなどもあり読ませるものとなったが、これが作家の力量によるのかどうかは判断に迷う。