『うさん』東直子

わりと素直なリアリズム系かと思って読み進めたのだが、旅の途中の喫茶店の女主人が出てくるあたりから一気に萎えた。なんかこの辺からとたんにコミカルになるのである。コミカルというのは、滑稽なとかコメディという意味合いではなく、言葉どおりマンガみたいなという感じ。マンガを読んでるような気分になってくるのだ。アナタは隠された温泉を見つけてしまったそれは行けということだ、とか、彼に話したんですかでは処理しておきます、とか、なんか下らない。
それなりに話の筋があるから読み進められるけれども、読み手にあまり傷跡を残していかない。人間描写なんかも浅い。変わってるふうな人物が登場してきてもどこかありきたり。この主人公の一人である写真家男性の薄っぺらさはなんだ、と思う。酷かもしれないが、例えばこの作品を、辻原登の作品なんかと比べてみて、どう感じるだろうか。
それでも、作品中に挿入される物語のなかにところどころ面白い描写や発想があった事はたしか。これらがつまらなければ、ほんとに汲むべきところのない作品だったと思う。ただこの物語じたいが、面倒くさがりの母親や若気の至りの娘カップルと、つまり現実とどう関わりがあるのか、という部分が弱い。ラストもいかにも思わせぶりだ。