『イサの氾濫』木村友祐

田舎の干渉的な生活を疎ましく感じ都会に出てみたもののやはり馴染めず、現実社会に居場所感をなくしかかっている中年男性の話。で、同様に家族の間に居場所のなかった変わり者の叔父の足跡をたどることで自分を見つめなおそうとする。と、ざっくりまとめてしまうとどこかで出会ったような感じもして、しかもその主人公の、叔父ではなく父親のほうはは田舎にしっかり居場所があって、主人公と不仲であって、となると基本的な設定は昔ながらのものである。もちろんそんな問題はことさら古臭いといいたいわけでもないし、乗り越えられた問題でもないのだが、この主人公が父親と激しいいい合いをできるというのが、いまとなっては幸せな部類なのかもしれない。そういうコミュニケーションすら途絶しがちなのが現代なのだから。もうひとつ付け加えるなら、この主人公は同窓会にも出てそこで居ないかのように軽く扱われていかにも悲惨な目に逢うふうであるが、むろん同窓会に出かけられるだけ、過去の知り合いに姿を見せられるだけでどれだけ幸福なことだろう。ちなみに私など、同窓会の誘いなど来たことがない。かなり昔に葉書が来ていたとき母親に電話で相談されて、行方不明だから二度と送るなとでも書いて返信しておけば面倒だし、と言った覚えがあるのだが、まさか本当にそうしたとは思えないが、今となっては母親もいないし、すでに昔の所から引越しもして生家すら無いので分からない。だいたいフルネームを思い出せる同級生が3人しかいないのだから話にならないが。
ともあれ、都会に居場所がないということについても、今ひとつ主人公が自己のなかの問題を探るより外部に責任を負わせがちのようにみえて、シンパシーも抱けない。そういうこともあって今回評価は高くないが、方言をそのまま書き込むというスタイルは多少読み辛くてもより人物が生き生きして嫌いではないし、この作家は何より書きたいことがある人なので応援したい気持ちはある。ラストがとてもよかった。