『泡の中の男』佐川光晴

「おれのおばさん」が集英社内で好評なのかどうか分からないが、まだ続編が続いていて、いよいよ問題の発端となった、女こしらえて横領で捕まった「おれ」の父親のはなし。
この小説がそれほどひどいわけではないが、今から思えばあくまで当初の予定通り「おばさん」「札幌的ななにか」だけで終わらせておけばよかったのに、と思う気持ちがやや上回る。まさか父親まで、ここまで「善人」の枠をひろげちゃったのか、ということに関しては、もうこの連作のコンセプトがそういうものだからと諦めるべきだとは思うが、いちばん肝心の、なぜにこの父親が、優秀な息子やとくにこれといって落ち度があるわけでもない妻を裏切って女作ったかの肝心の理由が読んでいて、こころに落ちてこない。
あとは小さいことだが、刑務所から出所して、ほとんどたいした苦労もなくこの父親が更生できてしまうのも、そういう小説だからとするほかないが、それにしたって、いくらこの父親が銀行員として経営を見る目を養ってきたからといって、一ヶ月かそこらでそれまで経験のなかった介護施設の問題点を指摘して施設に感心されちゃうというのもリアリズムとして疑問に思う。こういう介護施設がそんなに甘いものだとは思えない。