面白い
近代国家の枠組みが徐々に出来上がってくるころの、欧州の上流階級出身の役人を描いたものなのだが、この時代の欧州にさほど興味があるわけでもなく、しかもそこそこボリュームあるので、最初は読まないつもりだったんだけれど、最初の数ページ読んでいたら…
ローカル線のなかで、たまたま逃げた女をそれとなく探し続けている男と、男から逃げてきた女が、ななめ向かい合わせに座る。そして、この男と女が交互に、それぞれの主観で語るという小説なのだが、男のほうのパートでは、いま目の前にいる女と、男が探して…
さいきん「新潮」に連載されている遊女のやつはさっぱり面白くないので最近はもう殆ど流し読みなのだが、この作品はつい引き込まれた。自分が入院経験がある影響もあるかもしれないが、こういう"病もの"はつい読んでしまう。(まえに一度書いたかもしれない…
いままでこの人の書いたものに対する印象はいまいちだったが、「物語」があまりないこの作品でがらり一変である。絶対音感をもつ少女にとって世界がどのように見えるかというのを、あくまで文章による情景として描いてしまおうという小説で、作者が絶対音感…
おれのおばさんのこれは完全に続きであって、そのとき書いた以上それほどの感想はないが、いまひとつ思ったのは、この作品が書かれるにあたって、北海道、なかでも札幌という土地が中心であったことはある種の必然ではなかったか、と。少なくともあの作品の…
この人の語りは、ほんとこなれていて、物語的要素をうまく取り入れたエンターテインな純文学だと思う。ただでさえ職がないのに、ムショ上がりの人間に今の日本でいったいどういう生活が可能なのか、という話になっていくんだろうか?
私が読んでいる限りにおいてはずっと非リアリズムを書いてきて、しかし以前は確か恐竜だとか悪魔みたいなものとか出てきたことを思えば、この作家ずいぶんと洗練されてきたなあ、と一読して思う。分かりやすいというか大胆というか乱暴というかそういう非リ…
いつにも増して力が入っているように感じられたので、全部を理解したとは言いがたいかもしれないが少し書いておく。まず、戦後と震災後(原発事故後)は何かが決定的に違うのではないか、という点については、賛意を覚える。とくに、同じ11日に起きたから…
この特徴的な文体!私はこれだけで嬉しくなる。そして、この空疎な「戦後日本」の光景をいまふたたび描いたということは、間違いなく震災後の小説なのだ、と思う。
以前に載った短編の別テイクのようなものだ、という注釈が最後になされているが、今回の作品のより洗練されて読めるのは、読む私が変わったせいなんだろうか。「私」が一人称視点で自分自身をかたるごく普通の小説の部分と、その視点がいきなり神視点になっ…
電車の切符に記載された時間の取り違えハプニングを導入部にもってきて、読者を引っ張り込む手腕はさすがとしかいいようがない。
震災を期に、というか、原発事故を期に「新潮」に高橋が書いたもののなかでは一番何かを感じさせ、考えさせるものだった。 たとえば事故以前にだって「事故」はあったのに見ようとしてこなかったことについて。あるいは、いまの汚染をめぐる「分断」状況につ…
なぜかしら心に残る小説。現代中国で、仏教にすがるようにして生きる、一定以上の所得のある人々を描いた小説なのだが、短い小説でたいした筋があるわけでもないのに、おなじ人間の息吹をいちばんに感じた。 さまざまな光景の処理のしかたが現代の日本の小説…
今回は阿部和重のが出色で、これだけで面白く、もとがとれた感じ。外国勢は平均的に良かった感じかな。いつも韓国勢に厳しいみたいだけど、偏見なんて全くありませんからね、言うまでもなく。ハンリュウドラマもケーポップも知らないでしょ興味ないでしょ、…
評価の難しい作品だが、面白いか面白くないかといえば間違いなく面白い。 なぜ難しいかというと、わたしたちは小説の場外での小谷野敦氏にあまりに親しんでいて、この作品も、読んでいてブログの雑文の延長線上にあるエピソード集的回顧録という感じがして、…
たしか新人賞ではなく佳作デビューだったような覚えがあるのだけど、その後コンスタントに作品を発表し続けている人で、新人賞一作で終わってしまうよりも稀な感じもする。この作家はテーマ性だけでなく、文体そのものに一定の魅力というかスタイルがあるこ…
昨日の朝日新聞を読んで、いろいろ思うところあり、高橋源一郎のこの小説の評価を変えることとする。 この記事なのだが、なんでも佐賀県のある市で被災地のガレキの処理を受け入れる決定をしたところ、放射能を懸念したのであろう「安全な九州を守って」とか…
ヒスパニックのおかれた状況をドキュメンタリでみることはあっても小説で読むことはなかったので新鮮だったのと、主人公の兄が死ぬとともに、つきあっていた彼女までもが「死んで」しまうところが胸を打つ。きっとここには万国共通の残酷な瞬間がある。 ゴリ…
題名からしてすでにストレートだが、あの津波と遭遇した一家のそれぞれについて、多少の工夫はあるものの、そこにあった、また、あるべきだった生活と、遭遇の状況を何の奇をてらうこともなく小説としている。多くのひとがあれだけの出来事なのだからそんな…
読み始めてしばらくは、最近の新潮の新人賞はなかなか読ませるね、と思ったりもしたけど、よく考えてみれば前回の新人賞がとくに良かっただけで、更によく思い出してみれば、ちょっと前までは福田和也が編集の人のボヤキとして候補作を揃えるだけでも大変・・・…
結果として一番短いこの作品がいちばん読ませるものだった。久しぶりに読んだがこんなに流暢な上手い書き方をする作家だっけという感じである。 一人称として語られる部分と、三人称で、時代を包括する俯瞰的な視点から語る視点が混在していて、最初少し混乱…
以前に、どういう題材を扱った作品でも、どこかしら楽天的な明るさが漂う、とかそのような事を書いた記憶がある木村作品だが、この作品にはそんなものはまるで無くなっていた。 ひとりの女性が、他人の保険証をネコババすることでその女性になりすまし、街か…
前作から少し評価しだしたのだが、どんどん良くなっている。というかこんな言い方は失礼で、実際は、読み手のほうの私がやっとこさこの作家の面白さを理解し始めたというのが正しいのだろうけれど。 この作家は「叔父」だとか「友幸友幸」だとか、思考実験の…
リアリズム。過去の回想がけっこうな分量で入るから、厳密には「一日の小説」とは言いがたく、しかしだからこそ面白くも読め、こちらの方が上記作品の分量であったらな、とも思う。終戦間際の日本兵たちを描いたというものでは最近『逸見(ヘミ)小学校』(…
この連作では気候の話などから入ることが多いと記憶していて、で、その記述が実際の自分の数ヶ月前の実感と一致したりするものだから、いつかは震災にも触れることがあるかもしれないと思っていたら、完結編でそうなった。 もっとも震災の当日にどんなふうに…
このシリーズ最近では、面白げなことを書いているか否かばかりしか評価していなかったが、今回の作品はそういうところが少ないにも関わらず、いちばん退屈しなかったかもしれない。生物(鉱物もふくめ)が進化していく過程で、いかにもそこで見られそうな風…
一部掲載なので、その一部しか読んでいない。だからほんらい評価不能なのだが、これだけでも残りはまずは面白いんじゃないかと思わせる。 「あみ子」が魅力的だという声がけっこうあって、まあ確かになんだけれど、通学路で「兄」が友人たちから隠れようとす…
読むつもりがなかったのだけれど、音楽の話だったので一気に読んでしまった。17歳でブルースというのはすごいなあ。 この人は書き方が上から目線的な薀蓄口調になるので、ネット世代には好かれないかもしれないけれど、なるほどと思うところは思う。 また…
「すばる」に奥泉氏がジャズの小説を書き始めたとき、日本人JAZZメン列伝みたいなシリーズになるかと思っていたのだが、結局この"イモナベ"さんしか記憶に残っていない。 私も日本人のジャズメン全て知り尽くしている訳ではないけど、もちろん虚構でこん…
今回も外の物音、とくに風の音が小説の背景に吹いているが、いつにもまして平凡極まりない主婦が主人公の話。離婚してしまうから昔なら平凡とは言えなかったかも知れないが、昨今はそんなこともないだろう。 いつのまにかなんで結婚したのか分からぬくらい醒…