『枯れ木の林』古井由吉

今回も外の物音、とくに風の音が小説の背景に吹いているが、いつにもまして平凡極まりない主婦が主人公の話。離婚してしまうから昔なら平凡とは言えなかったかも知れないが、昨今はそんなこともないだろう。
いつのまにかなんで結婚したのか分からぬくらい醒めていてそれでも子供もいるなかで現状に生きていると、女が出来たと別れを切り出され、で分かれて母娘で暫く暮らして、娘が出て行って一人になる。そのときどきで自分でも予想外に驚いたり取り乱したりすることがないというのがかえってリアルに感じられて面白い。
がしかしもちろん作られている。古井氏はこういう話を書きながら、あるいは読者はこういう作品を読んで心のどこかに蓄積しながら、生き、そして実生活で人の顔を見たりすると、たとえ何もなかろうとそこに何かを読み込んで接して、そんなふうに生きていく。
こういう基本線をはずさないからこそ、例え変化というものが少ししかないようにみえて、いつも同じテイストのように見えて、作品に飽くということがないのだろう。それは、人と知り合いになるとき、まさに人はそれぞれであって、飽くことがないのと似ている。