『青』花村萬月

読むつもりがなかったのだけれど、音楽の話だったので一気に読んでしまった。17歳でブルースというのはすごいなあ。
この人は書き方が上から目線的な薀蓄口調になるので、ネット世代には好かれないかもしれないけれど、なるほどと思うところは思う。
また小説とは別の話になるが、私の場合は20代半ばでストーンズの初期のアルバムに嵌るまで、黒人音楽の良さがあまり分からず、なんであんな同じような曲ばかりやっているようなのが面白いんだろうと思っていた。黒人音楽のテイストを取り入れた白人ミュージシャンのものも聴けなかった。ルーリードとかそんなのばっかだった。
全く恥ずかしい話だが、それよりはるか以降にその頃の自分と同じような感想に出会い仰天するのだった。
あるころある日私がジャズを聴くという話を仕入れた当時配属されたばかりのところの上司が、一枚入門的なものを貸してくれないか、と来た。新しい社員と近づきたいというのが主な目的だったんだろうが、純粋にいままで分からなかったジャズを少し知りたいという気持ちもあったのではないか。で、これはスタンダード中心のものだろうということで、ビル・エヴァンズの有名なリバーサイドのトリオ盤を貸したのだが、数日後、同じような曲ばかりで良くわかんなかったよ〜、と言われてしまったのだ。え、こんなに違う曲、しかもキャッチーな曲ばかりなのに、と驚いたが、よくよく考えればどれもアコースティックなピアノとベースとドラムだけだし無理も無いんであった。
実は晩年のエヴァンズになると私も曲の区別がつかなかったりする。で、だからこそ、楽理がわかれば楽しみも倍加するとは思うんだけど、その一方でこの小説に書かれているような、トニー・ウィリアムスとリンゴスターを比べてリンゴが旨いというところまで行かなくて良かったとも思ったりする。