オモロない

『昼田とハッコウ』山崎ナオコーラ

佐藤友哉にならえば、連載途中の作品を批評するのは反則だということらしく、それも理がある。よってこの評価で言及することにする。つまり割り引いてこの評価ということだ。 それでも言及したくなるくらい、読んでいて頭にきたのだ。いままでは、ただ漫然と…

『塔の中の女』間宮緑

最後まで読んだ自分をほめてやりたい。 いやもちろん、最後までさしたる瑕疵もなくこの量を書き上げた作者こそ誉められるべきなのだろう。首を傾げたくなる箇所はない。がしかし、読んで夢中になったり気持ちが揺さぶられたりすることも同時に無く、もはや苦…

『恋愛は小説か』片岡義男

失敗した。予想通りだった。良いご身分のひとが自由な恋愛をしてらして良かったですねとそれだけ。会話にも面白みも深みもない。 この出版不況のなかでフリーランスでやっていけるなんて一握りの一握りだろうに、そういう気配がまったく漂わない。もしかして…

『日本の大転換(上)』中沢新一

上下あるうち上だけ読んで評価を下すのはアンフェアかもしれないが、下編を読む気がしないので今記しておく。 恐らく下編でも原発反対の論陣を張るんだろうが、説得力云々のまえにここまで壮大な話をしなければならないのか、という思いしかない。やや唖然で…

『垣根のむこう』甘糟幸子

こういう作品が載っているのをみると「すばる」再び定期購読する日も遠いなあと思う。 これもまた主人公に感情移入できないのだが、上記の作品と違って意図したものではないだろう。30代の女性という設定だが、とくに恋人もおらず特技・資格もなく貯金もな…

『馬たちよ、それでも光は無垢で』古川日出男

評価の難しい作品。というのはまず第一にこの作家の東北を舞台にした作品をまったく読んでいないからで、読んでいないと実感できにくい場面がある。たとえば、自分の名前の頭文字とその小説を英題におきかえたものが一致していた、とか驚かれても、はぁ・・・・・…

『ビールの話』chori

あるオトコと、嘘くさいオンナとの嘘くさい友情めいたもの、の話。こういうの癒し系?っていうの? 接吻までしておいて記憶にあまり引っかかってなかったとかそんな事が書いてある所でこの小説の評価が決定的に下された。 ポストモダンについて熱く語るよう…

『もう一つの世界で』叶 弥

いわゆる変身譚?という奴なんでしょうか鶴の恩返し的な。 中国の地方での開発は金融危機以後すさまじいものがあるらしく(最近でも鉄道事故あったが)、その開発の環境破壊のせいで住めなくなる蛍が娘の姿をして訴えてくるという話なんだが・・・・・・。 近代小…

『ゴッホとの一夜』チョウ・ヒョン

なるほどタイムトラベルというのを物理的な移動ではなくこういうふうなものとして考えることもできるんだ、という所だけが読みどころ。 並行世界がそこには関わっていて、いろいろな我々の現実とは異なるIFIFバナシみたいなものがこの小説には出てくるが…

『犬とハモニカ』江國香織

空港での人間模様をうわべだけなぞった感じ。もうただそれだけ。一応複数視点の小説で、立派な成年女性が外人に子供の姉と思われるあたりとラストで少し仕掛けがあったりするが、どちらも予想の範囲内のもの。もちろんあえてそうしていて、訳の分からないと…

『スポンジ』よしもとばなな

括弧記号を間違えたついでに新しく[面白い]他の既存カテゴリーに[スポンジ]ってカテゴリーを作ろうかと一瞬思ったよ。 いくら過去を回想する話だからって、ゲイの男友達と寝てしまいました・・・・・・って、向き合おうとしない女の子の話を今更読ませられるとは思…

『お伽草紙』高橋源一郎

高橋源一郎は群像の連載からするとほんとうに子供と暮らしているみたいで、で子供から余程得るところがあるらしくこんなんばっかり書いてないか? この間の短編は面白いと書いた覚えがあるが、大部分がパパとその子供との問答で構成されるこの小説はもはや退…

『すきずき』瀬戸良枝

うーい。この小説について何を書けば良いのやら。読んだのでなんか書こうと思うのだが、まったく関心のないような話がまったく関心のないように運んで終わる。何しろ、働く必要がいっさいなくてそれどころか良い食事を毎晩楽しんでもぜんぜん平気な一人身の…

『水際の声』谷崎由依

あまり良いこと書いてなかった作家なので、気に入るところあればいいなあと思いつつ、こりゃダメと思ったら途中で潔く止めようとも頭におきつつ漫然と読みはじめたら、深夜にかかってくる見知らぬ人の悩みを電話で受け止めるという職業に従ずるひとの話。 お…

『猫の女の子』荻世いをら

まったく申し訳ないが、毎度のことながらこの人の作品にはほとんど全く感想が浮かばない。どこが面白みなのかが、私の無い頭では理解できないようだ。 そもそもの出だしからして全く乗れない。ちょっと変わった女の子が駐輪場にいて、男が声をかけるとホイホ…

『PK』伊坂幸太郎

伊坂幸太郎の名があるだけで群像の売り上げが少しでも伸びればと思うと、[紙の無駄]にもできません。もどかしいです。 サッカーの話ってだけで私的にはすでに減点。あれ?松波太郎のときはそんな事なかったじゃない?とか言わないように。サッカーだけならま…

『オフ・オフ・オフ』中島さなえ

話を作ろうと「試みようとするところ」のみしか、評価できる点がない。結果、できた話はいかにも作り話で、しかも単純に教訓的すぎて。これなら話なんかなくても良くて、前の会社をやめることになった顛末や、新聞配達の仕事をもっともっと詳しく書くだけで…

『星になる』山下澄人

勝手に悩んでればー?っていうくらい独我的で退屈な内省がくりひろげられる。自分と会話するだけでなくたとえばタクシー運転手と会話してもそこから何も派生しない。独我であって、運転手は手段でありモノでしかないから。空想の父親や母親のまえに目のまえ…

『おにいさんがこわい』松田青子

幼稚園くらいの児童が、児童番組にでてくる「おにいさん」を、なぜ兄弟でもないのにおにいさんなのか、とかそんなことをいって怖がる話なのだが、何が面白いのかさっぱりわからない。 きっと作者は面白みを感じていて、その感覚が私とはだいぶ遠いというだけ…

『ぼくは発音がしたい』今橋愛

題名と異なって女性の内省から成り立っている。その内容は凡庸で、語り口が工夫されていなかったら、最後まで読むのが辛かったかもしれないし、最後になって改心しそうになる気持ちとなるのがどういうきっかけなのか分かり辛い。 それに離婚して何もしていな…

『名の前の時間』丹下健太

幼い娘がなかなかつけられないペットの名前の話から、父親母親の名前をめぐるやりとりになり、そのやりとりのスケッチのなかで微妙な家族の関係をあぶり出す、といった趣向。 父親のノートなるものをみて、これだけの感慨しか思い浮かばない人間もたしかに大…

『石飛山祭』石牟礼道子

近世のころの話だろうか、山から海へと集落を連ねた村落共同体での、日照り〜雨乞いで起こった出来事が語られるのだが、いかにもこの時代のできごとを語るに相応しいかのような文語調で語られる。それでも、リズムや言い回しがそれっぽいだけで、思ったほど…

『距離、必需品』岡田利規

ダンサーとして世界中のあちこちで公演をしている「彼」が日本へ帰ってきて、その妻である「わたし」と過ごす一日みたいな内容で、とりあえずその内容には、とりたてて深い内省があるわけでもなく、みるべきものは何もない。この「わたし」の考えている内容…

『サンクチュアリ』桜井鈴茂

たぶん私が読めていないだけだろうと思うが、面白くないものは面白くないのだから仕方ない。誰も彼もが格好よすぎてついていけないのですわ。そもそも初対面の女性と、こんな気の効いた会話を交わせるような奴が、強盗だか窃盗だかしなければならないような…

『ロミオとロザライン』鴻上尚史

劇団の主宰者というか演出家というか作家というか、そういう人物が主人公なんだけど、彼の劇団が今度上演しようとする芝居と登場人物の実人生が、語っていくうちに徐々に重なってくるという、小説そのもののアイデアというか意匠はよく出来ていると思うし、…

『疾風怒濤』古川日出男

題名に「疾風」とはあるが、主人公の行動、生き方に特段のスピード感を感じる事もなければ、物語の展開が速いとかそういうわけでもない。では内容ではなくメタな形式からいうと、確かに文体には特徴があって、短文が多数あり、また、「。」で終わるような部…

『沈黙と声』甘糟幸子

丁寧に読んでいないせいでもあり読解力のないせいでもあるんだろうけど、主人公と、山小屋の火事で死んだ人物との関係が最後までよく分からず(義理の母?)、それが気になって、クライマックスである眼の悪い死んだ人物の実子の告白が全く心に響かない。肝…

『雪景色老梅花』近藤勲公

もてまくっている老人が主人公。笑顔を絶やさない老妻が居ながら、なまめかしい色香漂う未亡人に迫られる。なんともうらやましいですなあ。 ていうか、なんだこりゃ。借りてきたものに[紙の無駄]は失礼だからしないけど。 白い色鉛筆で書いたものを消す、と…

『マグニチュード』円城塔

はいはい毎度科学薀蓄ありがとう、といいたくなるが、今回の特集で最も想像力の貧しさを感じさせるこの作品がもっとも近く2030年を占っているのかもしれないね。 しかし改めて、読みきれない小説だとか自動スクリプト?だとかそんなものが存在したり、あ…

『たなごころ』楊逸

携帯やネットにこもる現代人を皮肉るにしては、あまりに古典的でストレートな小説。これじゃたんなる反機械のヒューマニズム。