『ゴッホとの一夜』チョウ・ヒョン

なるほどタイムトラベルというのを物理的な移動ではなくこういうふうなものとして考えることもできるんだ、という所だけが読みどころ。
並行世界がそこには関わっていて、いろいろな我々の現実とは異なるIFIFバナシみたいなものがこの小説には出てくるが、どれひとつ刺激的ではない。いったい何が書きたかったのだろう。トロツキーが権力を握った世界とか、ビートルズが再結成された世界とか言われても、全く見てみたいとも想像したいとも思わないものだ。またミロのヴィーナスが創造された瞬間とか、ゴッホが思索している瞬間に立ち会いたいという気持ちもさっぱり分からない。たんなる勘なんだが、この作家、芸術というものに疎いんじゃないか。一回性や現前性がそこでは肝ではないのか。
そもそも先進国がどこも財政難で四苦八苦しているというのに、どんなスパンだろうと土星に移住だのなんてありえるはずがねーと思うのだが、そこはなんと今の私たちが小説世界では並行宇宙のひとつに過ぎないというオチだ。しかし並行宇宙ってそんなに中身(出来事)が離れて成り立つものなの?