2007-01-01から1年間の記事一覧

『神器―浪漫的な航海の記録―』奥泉 光

なんかやっと佳境に入ってきたというか、多面的に物語が進行するようになったりしてきたし、心なしかページも増えているような気がして、読み応え充分。 同じ連載の平野作品とか、発売されたばかりなので内容は詳しく書かない、とこの間ココで書いたが、今月…

『新潮』 2007.12 奥泉光作品

本にカバーをかける趣味もそもそもないし、家で出るゴミをなるべく減らしたいので、本屋でカバーをおかけしますかと言われたら即座に断るし、何も言わずにカバーを掛け始めたらカバー入りません、と途中でも止めさせるようにしているのですが、買った袋のな…

対談 古川日出男×佐藤良明

あまり吟味することなくさっと流し読み。 佐藤良明さんは、ピンチョンの長い独特な注釈つきの翻訳で私のなかではおなじみだが、他の仕事はよく知らない。 古川日出男も数作しか読んだことがない。というか挫折したことのほうが多い、そんな作家。 で、この2…

『新潮』 2007.12

発売されてから日が浅いんでネタバレ的なことは書きませんけど、『新潮』の連載、平野作品、高村作品どうしようもなく面白いですね。 高村作品なんか、仏教に関する高度に観念的な論議まで話が及んでます。 平野啓一郎の過去作品はともかく、私はきっと『新…

『嘘つきペニス』平田俊子

すばるに載った前作が面白かったのである程度期待したのだが、ちょっと肩透かし。前々作に戻った感じである。 男に振られた中年女性がその男へ執着し続けるという話で、執着の程度は前々作には及ばないものの、ある程度しつこい。ただ、そのしつこさの核とな…

『群像』 2007.11 読切作品

今月は出版社も分かってるだろうし、先月のような売り切れはないだろうという事は分かっていながら、群像を一応発売日に買いました。

『肝心の子供』磯崎憲一郎

これは評価しづらい作品。なぜかというと物語というよりは素描みたいな感じがするからで、あるいは何かからの抜粋のような感じといったらよいか。ブッダとその子、孫の生活についての描写なのだが、何かが起って何かが収束するわけでもなく、また描写の比重…

『青色讃歌』丹下健太

著者の略歴をみると、いわゆる"失われた世代"(=日本経済が一番萎縮したときに就職期の世代)のど真ん中のようで、どうしても同情が先走ってしまうが、読後感は、なんかステロタイプな小説を読んだなというもので、あまり良くなかった事は正直に書いておく。…

『文藝』 2007冬号 文藝賞

『文藝』の作品について書くのは初めてだと思う。いまいち興味が持てない作家の特集ばかりで目を通してすらいなかったんですけど。 けど文藝で特集されてるのって今人気の作家さんなわけで、それを興味がない、とはつまり、そんな今の人気というものと全然シ…

『果樹園』堀江敏幸

私にとっての堀江敏幸初体験。わりとよく書けたリアリズム系中篇である。老年に差しかかったときに休職を余儀なくされた男性が二匹の犬を散歩させながら、自己を見つめなおす、といった内容である。 以上。 ・・・って終わってもいいくらいあまりこの作品で書き…

『文學界』 2007.11 読切作品

この間久しぶりにマックにいったら、メニューの点数(アイテム)の少なさをあらためて感じました。 あれではバーガー業界の吉野家、なるほどここまで点数を絞れば100円で利益が出るという事でしょうか。 なんて、すっかりジャンクフード扱いしてますけど、む…

前田司郎のエッセイ

ひとりよがり、というと悪くいいすぎになるが、なんか自縛状態というか、自分の力で考えようと思いすぎというか。この人の問題意識からして、どっかの大学の文学部哲学科でも入ってウィトゲンシュタインとかあのへんの言語哲学的なものを研究してりゃいいん…

広小路尚祈のエッセイ

下着についての話で、良い意味でエッセイの見本のような感じ。やはりこの人は書ける人だ、と思う。ちょっとエンターテインメントの要素が入ったもの−中間小説的分野でも成功するのかもしれない。 エッセイ自体の内容も背伸びしない宣言でもあるし。

『左の夢』金原ひとみ

コンスタントに作品を発表しつづける金原ひとみだが、それによって質が落ちるという気配すらない。またすごい小説を読んでしまった、という気分だ。 今作は男性一人称小説でありながら、圧倒的なリアリティ。思わず自分のバカかりしあの頃を省みざるを得なく…

『すばる』2007.11 読切

寒くなると温泉とか行きたくなって、近くにそういう施設もあるのですが、垢が浮いてるような安い銭湯と2000円以上もするスーパー銭湯しかありません。 どんなに広くて綺麗で色んな湯が楽しめても、2000円以上払う気はもちろんしません。

『はじまらないティータイム』原田ひ香

話に筋があり、読者を引っ張っていってくれる、そんな物語的マジックをこの小説は強く持っている。女性たちの性格的な色分けを強く出しすぎた面があって、ちょっと一面的かなという気もするが、そんな欠点も許せる気になってしまう。 卑近な話がテーマの中心…

『パワー系181』墨谷渉

体にコンプレックス(劣等感ではなく複合感情)を抱く、大柄な女性とチビ男性の物語といったところか。女性はそのコンプレックスをポジティヴな方向に変えていくが、男性は醜い方向に発散させていく。 男性がそうなったきっかけは妻が流産になったことにあり…

『すばる』2007.11 すばる文学賞

高校生の頃は目玉焼きにこだわりがありました。黄身が固まっていないとダメなのです。どうせなら両面焼きにしてくれとまで親に言った覚えがあります。 なんてアホらしかったんでしょう。 さいきんは黄身が固まっていようがトロリとしていようが、白身がカリ…

『アウレリャーノがやってくる』高橋文樹

小説なんかほとんど全く書いたことがないくせに、たいへんだろうなあという思いが最近増していて、新人の人に対してはなんか[紙の無駄]と言いづらい気もしてきていた私なのだが、この作品はそこまで迷わなかった。 とりあえず最後まで読むのがそれほど苦痛で…

『新潮』 2007.11 新潮新人賞

新しい歯ブラシを買ってきたのでいつもより一所懸命歯を磨いたら、口内炎になりました。 その口内炎を気にしてヘンな噛みかたで食事をしていたら、反対側も口内炎になりました。

金原ひとみのエッセイ

完全にひいきで書いてるけど、書き出しからなかなかいかしてるエッセイだ。 たかが貧血と診断されただけのことと、それについての自分のまわりのごく小さい範囲の事だけ書いて、面白く書けるもんなんだな書ける人は。

松浦寿輝の評論

松浦寿輝がここで扱ってることがらって、近代が、その現場において、どういうふうに成り立ってきたのか、みたいな事で、それなりに関心があるはずなのに、あまり面白さを感じないのは何故なんだろう。 丹念に読めばなかなか面白い事が今月も書いてあるんだけ…

山城むつみの評論

正直ほとんど私の頭では理解できなかったので、良くも、悪くも書きようがない。山城氏の文体はとくに特徴のないものだが、ドゥルーズとか出されると、もうダメだ。最後のほうで、9.11を映画との対比で語られるんだけど、いつもそれで思うのは、あの事件…

斎藤環の評論

いつ読んでも、なんか退屈。 そもそも心理学だの社会学だの医学だのというのは一般論の世界であって、そこに当てはまらないものを「特殊」としてオミットしてしまうわけだけど、そのこぼれ落ちた「特殊」を「個」とみて同等にシンパシーをもって掬っていくの…

福田和也の評論

堀江敏幸は川端だった、という内容でいつもより明確な論旨だなと思いつつ読み進めるとなんかへんな箇所がある。 堀江の書いた小説についての話で、現代ではあらゆるものがマスプロダクト化されているので、堀江が書いた、生産設備が「手作り」だというのはま…

『新潮』 2007.10 拾遺2

私の場合はこだわりとかそういうのではないので、別に各個人がそれぞれでいいと思うけど、短時間でそれなりの味のカレーを作るとしたら、肉はひき肉使って、玉ねぎはあめ色にしなくてもソース入れればOK、最後に牛乳いれてまろやかにというのがオススメ。 …

『天登り』村田喜代子

元気なリタイア老人たちの第二の人生シリーズとでも言おうか。前には確かヘンな旅行マニアおやじが出てきたのでそれなりに面白かったが、今回は山で自給自足をする老人の話。パソコンもなかなか使えたりする。 あまり変わった人たちという感じはしないところ…

『目覚めた後の夢』辻 仁成

短いという全くそれだけの理由で読んでみたが、意外と読めるので驚いた。少なくともこないだ読んだ議員のやつより読める。辻の小説をまあまあ読めると感じてしまうくらい最近はひどいものを読んでたという事だろうか。だとしたら、ちょっと暗い気持ちになる…

『ネバーランド』(7)藤野千夜

いぜん酷評したことがある藤野さんだがゴメンナサイというか、なんかこの作品に関しては、そこそこ面白さを感じた。 付き合うのがこの男性でなければならない事を、その気持ちや理由をストレートに言葉で描写するのではなく、男性の行動を描くことによって「…

『修道女志願』小川国夫

さきの大戦のころの話で、修道院に志願する女性をその弟の目から描いたもの。自分の資質を理解するのがあまり器用でない姉と、それを分からない周囲への少年の反発を描いている。 もともと奔放な資質をもった女性が、そのことを分からず、逆に、結婚の失敗を…