『かめこさま』橋口いくよ

途中からありえなさ感が増して、だんだん怖さが伝わらなくなる。かといって話の展開が思いっきりはじけるというほどでもなく中途半端に思う。

『御命授天纏佐左目谷行』日和聡子

題名からして漢字の多そうな、読みにくそうなイメージなんだが全くそんなことは無く。舞台とか登場人物はいかにも民話の世界というか和の感じなんだが、ところどころに現代風の言い回しが混在してきて、最初は苦笑させられる程度だったんだが、そのうちこれ…

『獅子渡り鼻』小野正嗣

すばるを主に舞台にして書いていた限界集落ものと似た設定だが、私が苦手とする少年主人公もので、結局その苦手感は最後まで覆されることはなかった。これまでの作品でもこの作者は社会的弱者を扱ってきたが、そこには弱者なりの汚れ感というかしょーもなさ…

『三姉妹』福永信

この作家、どちらかというと文「芸」の人と思っていて、内容どうこうというか、訴えたいこととかそういうのよりも、読む・書くこと自体へのテクニカルな楽しみがこれまでの作品では追求されていて、そういう指向のひとには多分評価は高いのだろうけれども、…

『松ぼっくいとセミの永遠』大森兄弟

題名で想像されるとおりの作品。今どきの小学生ともとくに関係なさそうだし、岡崎作品のような毒もなく、何もひっかかってこない。

『ファンタズマゴーリア』岡崎祥久

いつもいつも冴えない中年男が世間に毒づく話を書いていてもしょうがないと思ったのかどうか、内容的にも量的にもかなりトライして変えてきた作品。SFかよ、という。だがこれについては、私の場合完全に裏目。円城塔みたいに、文系の人にたいするこれみよ…

『モネと冥王星』海猫沢めろん

なんか並行宇宙的な所があったり役割のよく分からない非現実的人物が出てきたりして話が見えない。すばるでおちゃらけた話を書いているのに比べればだいぶトライしている感じがしてその分評価は落とさないが。あとなんか必要以上に感傷的とも感じた。

『私はあなたの瞳の林檎』舞城王太郎

掲載誌によらず、舞城の思春期多言モノとでもいったらよいかこういう作品は、どれも面白くないということは絶対ないのだが、予想を超えるものもなくて余り書きたいことがない。土地が個人的にやたらと馴染みがあったりはするのだが。ちなみにどうでもいいこ…

『群像』2012.9〜2013.4まとめて

ラテン音楽のラテンのテイストが苦手です。 図書館のリサイクル資料(タダ)で3年くらい前のロッキンオンがあったので持って帰ったのですが、見事に読むところがありませんでした。 でもタイアップとか色々試みていて、これはこれでこの世界、いずれ縮小均…

『黙って喰え』門脇大祐

上記の作品では、肝心の理由(拒食にいたる道)が書かれていないことに何の不満もなかったのに、この作品ではオオアリだった。なぜ主人公は同棲女性の首を絞めたのか・・・・・・。心の闇みたいなものの存在を伺わせるような不可解な行動を描けば、その作品は文学…

『肉骨茶』高尾長良

拒食症の若い女性が主人公なのだが、なぜ拒食症に至ったかという肝心な所を含めて、心理をあえて深く描かず、ただ主人公の行動、主人公に降りかかる出来事を追っていく。テンポがよく、そういう所を中心に評価している選考委員もいたようだが、私には、わり…

『鴎よ、語れ。』藤谷治

明らかに震災という出来事があって書かれた小説で、作者の思いの真摯さがビンビンに伝わってくる力作で、太宰治について主人公が講演で語る内容がハイライトなのだが、そのなかにハッとさせられるものもずいぶんとあったように思う。とくに記憶に残るのは、…

『ハルモニア』鹿島田真希

肝心の芥川賞受賞作品を読んでいないのだが、この作品久しぶりに、群像の「ゼロの王国」以来になるか、面白いと感じた。たぶんご本人は一貫して書いているつもりなんだろうけれど、作品によってはどうにも設定にしっくりこなかったりもして、言ってみればつ…

『長い緑の茎のような少年』伊井直行

直接的な記述もあるくらいの震災小説。当時の平衡を欠いたような、微妙にずれたような雰囲気をたしかに上手く伝えてはいるものの、ほかになんか何か伝わってくるものがあったかというとやや否定的だ。 読者の興味を失わせないような話の運び方や、ギタリスト…

『ニイタカヤマノボレ』絲山秋子

なんか恐ろしい雰囲気のある小説。 共同体の規範的なものを迫る男性と別れる事になる女性が主人公。で、彼女はアスペルガーで、鉄塔のたたずまいのあいまいさの無い事実性を好む。 私などはつい、なんとなく反原発な世間への批判としてこの小説を受け取って…

『エッグ』野田秀樹

いっけん娯楽作品にみえて、満州とか731とかをベタにならない程度にそれとなく織り込む。しかも、日中関係が云々されているタイミングで。このいかにも私は良識派でございます的な振る舞いはもはや醜悪ですらある。芝居を金払って見るような財布に余裕の…

『還れぬ家』佐伯一麦

連載終了コメ。認知症の父親抱えて云々という内容で私小説でやられてしまっては、そりゃ読ませない訳がない。といっても、予想を大きく裏切るようなものも予想できず、毎回楽しみにというほどでもないのが正直なところ。母親がしっかりしているようでときに…

『夜露死苦現代詩2.0 ヒップホップの詩人たち』都築響一

連載終了ということでコメント。完全にナナメ読みだから聞き流してほしいけれども、言葉使い(リリックとか言えばいいんすか?)はたいていの人はそれぞれ上手いものがあったんじゃないかと思うが、内容で気を引かせるものは殆どなかったように思う。プロレ…

『天使』よしもとばなな

以前散見された、小説の言葉としては安直としか思えない表現がだいぶ目立たなくなり、なにより、好きになった人について、その人の自分の知らない昔をそのなかに見てしまい、さらにそのかけがえのなさに思いを新たにする所など、読んでいて、あこれ分かる気…

『ディスカス忌』小山田浩子

下半期の新潮掲載作ナンバーワン作品。つーか、他の文芸誌含めても一番記憶に残っているかも。短編ということなら、下半期も今年もなく相当上位にくる作品。と、これだけではまだ言い足りないなあ。短編で、これだけ豊かな内容を持ったものに今までの人生で…

『IT業界 心の闇』木下古栗

この作品のまえに読んだ2作が、はっきりしたコンセプトを感じさせる完成度の高い作品だったのに比べると、正直一段落ちるかなあ。あるOLが上司に頼まれてその妻に、上司の浮気相手のになりすまして謝りに行くという話なのだが、無茶苦茶な展開が、ただ無…

『父』橋本治

父親の態度が、息子にたいするものではなく「介護する誰か」に対するものになってしまうあたりの描写が生々しい。

『mundus』川上弘美

以前だったら、3、4年前だったら、即「つまらない」と切って捨てただろうけれど、なんつーか独特の面白さを感じる部分もあって、これは慣れなんだろうか。それに、こういうものは川上でなければ書けないというところもある。 人間らしさもあり、動物のよう…

『新潮』2012.9・10・11 まとめて

痔が少しも良くならないのでワセリンを塗ってみましたが、塗ならいと血が出るだけのことです。 しばらく休んだので読者の方もだいぶ居ないでしょうから(幾人かの方々からコメント頂いたのにほったらかしですみませんでした)、前にもまして好きに書こうと思…

『さしあたってとりあえず寂しげ』佐飛通俊

もう若くない、ひとり身の女性の話で、無理もないなと思うけれど、最近本当にこういうの多いんじゃないだろうか。世を映す鏡なんだよな、やっぱ小説は。主人公の内省の部分はそれほど違和がなく、クリーニング屋で男と知り合いその後起きた顛末も面白い。漠…

『オオクニヌシたち』三輪太郎

さいきんこの人はこんなんばっか書いているなあ。ぜんぜん面白くないとまでは言わないが、アメリカが日本を助けたのは、当初の理想が後退してからはずっとたんに赤化という波への防波堤でしかなく、神話と符合しているとか言われてもなあ。白けるだけだよ。

『人生ゲーム』綿矢りさ

同級生3人が子供の頃に遊んだ人生ゲームの悪い目の結果が大人になってことごとく実現してしまう。で、その人生ゲームに手を加えた人物がいたことを思い出し、彼の消息を知ろうとする・・・・・・。といったあからさまに作り話的な非リアリズム小説なんだが、感動…

『屋根屋』村田喜代子

この人はおなかの中の子供がしゃべったりするようなものより、こういうリアリズムのほうが断然いいんじゃないかな。しかも主人公が作家本人に近い年齢・性別っぽく、それが尚更一人称の文章を生き生きさせているような。というわけで、前半は非常に面白く読…

『群像』 2012.8 読切作品

唐突かもしれませんが、いや、あまり唐突ではないかもしれませんが、当ブログ本日をもって暫く多分、ほぼ休止状態になると思います。あいまいな言い方ですが、要するにどうなるか分かりませんので。更新頻度減って続くのか、減るうちどうでも良くなったりす…

『娘のくれた「肩たたき券」』坂口恭平

エッセイなんだが、一部しか読んでいないので(掛け値なしにマジで)、評価省略。 なんでも、東日本に住む人々全員に避難を呼びかけ、故郷熊本に戻り私設公民館に100人避難させたらしいんだが、いまこのころになってまでそんなことを得々として語るこの恐…