『獅子渡り鼻』小野正嗣

すばるを主に舞台にして書いていた限界集落ものと似た設定だが、私が苦手とする少年主人公もので、結局その苦手感は最後まで覆されることはなかった。これまでの作品でもこの作者は社会的弱者を扱ってきたが、そこには弱者なりの汚れ感というかしょーもなさ、両義的な部分があった。今回は非リアリズム感が少し弱められたと同時に、ただよう毒も弱まってしまっているように思える。もちろんこの小説が単純に少年=無垢として扱ってはいるわけではないが、近年その傾向を益々強めてきている支配的なイデオロギーである「少年=無垢で輝くもの、大人=世間知で汚れてしまったもの」という大ウソに、文学は抵抗を見せてほしいと思う。