2009-10-22から1日間の記事一覧

『おれのおばさん』佐川光晴

多少読みやすく、大人の側の善悪がはっきりし過ぎているきらいはあるが、中学生同士でいつのまにか友情らしき連帯感が芽生えていくところの描き方は流石という他はない。この作家には、もう徹底して弱い側に立ってもらっていいと思う。これを他の作家が無理…

『踊りませんか、榊高ノブといっしょに』松波太郎

じわじわと、この人のものを面白いと感じるようになってきている。なんといってもこの作家は、闇雲な感じの人を描くのが上手い。もはや手馴れた感じさえするくらいだ。おそらくこういう登場人物もまた、今回のすばる文学賞受賞作のラストで言われた、ただ「…

『好去好来歌』温又柔

佳作となっているが、私にはこちらの方が受賞作に相応しいと思えるくらいのものだった。 まず感じたのは、この小説にはどこにも「悪者」がいない、ということ。中華料理屋の若い店員から、ちょっと足りない感じがする恋人、また主人公が一番に対峙する人であ…

『海猫ツリーハウス』木村友祐

会話で方言がそのまま描写され、現代訳のルビが振られるという工夫によって、生き生きとした小説となっている。 主要な内容としては、服飾デザイナーになりたい地方の青年の鬱屈を扱ったもので、その内面にとくに目新しいものは感じない。ヘリコプターに自分…

『すばる』 2009.11 すばる文学賞ほか読切作品

先日、CDが売れないという話をここで書きましたが、加藤和彦さんが自殺してしまいました。 この自殺については加藤さん固有の問題が多くを占めているのでしょうが、業界の状況があまり芳しくないというのが全く関係ないとも私には思えません。むろん直接の…