『雪の夜ばなし』辻井喬

期待していなかったが思ったとおり。樺太で集団自決したと思われていた女性が実は生きていてその人がいまやっと明かす己の人生、みたいな内容で、イントロではその人が語ったテープがどうのこうのともったいぶった小説的仕掛けがなされているが、この程度の内容であればドキュメンタリーで足りている。
というかこの小説では典型的な戦後的世界観、つまり戦争というのは為政者がおこなった悪、大衆はそれ押し付けられて悲劇という奴なんだが、そういう単純さが支配しているようにしか感じさせないが、ドキュメンタリーなんかみると、これはとくに最近のことかもしれないが、「まあ当時はみなそういう空気でしたので・・・・・・、なかなか想像つかないとは思いますが」という留保はあるものの、当時いかに戦争に勝つことにやっきとなっていたか、みんな意気揚々と頑張っていたか、がけっこう語られたりしているもので、この小説以上に様々なことを感じさせてくれる。みんなが押し付けられていると感じるところでは、まず戦争など起きないということ。
もちろん樺太で色々あったことを知らない人にたいする啓蒙としての意義までゼロとは言わない。