『グスト城』徐 則臣

中国作家の作品だが、なんとアメリカに暮らす中国人の話。偏見であることを前もって断っておくが、さすが中国懐深いというか、ピンキリというか、このアメリカ在住中国人が恐ろしく洗練されているのだ。
読者を楽しませる気の利いた話の運び方ときびきびした場面転換とシンプルでつぼを押さえた会話。そこかしこにユーモアがあり、それだけでなく人を見る目に、何を許して何を許さないかという厳しさもまたある。
東南アジアからの貧しい移民の家族が登場したりして、彼らの存在感もとてもあるのだけれど、総じてこの小説から感じられるのは「アメリカ」であり、主人公の寄宿する先のアメリカ人オヤジがいちばん心に残る。こういう中国人も現れるようになったのね、という意味で特集の意義の範囲内には辛うじて残るかもしれないが。
ともあれ、この号の新潮でいちばん好感持てたかもしれない。最初の部屋決めですぐに主人公が一軒目を諦めるのとその理由があとであきらかになる部分の描き方がとりわけ好き。


以下おまけ