『不可能』松浦寿輝

いぜんは飛び飛び掲載だったのが、連続掲載されて、すっかり平岡の虚無に馴染んでしまったというか、面白く読めてしまった。ここで不可能に見えたことはたんなるトリックにすぎず、しかも一世紀近く前のトリックのレベルと言ってもよく、しかし、純文学に慣れた私には新鮮で楽しめた。
それにしても晩年の平岡さんのあの妙な真剣さ(結局死に至るほどだったわけだが)に比して、このような徹底した虚無の立場で復活させることは、いっけんその真剣さを否定し、からかうように見えて、救済しているかのように思えるのはどういうわけか。実際に首チョンパーになった人のことをそのまま首なし死体ネタにするなんてちょっとした不謹慎さがあるのだが。
むろん現代の日本にはこういうマインドでしか平岡の居場所がないからではあるが、極から極へは紙一重だったんじゃないの、と同時に彼に言っているかのよう、惜しんでいるかのようだ。