『祖母の大事』中上紀

父が出てくる私小説ぽいのは嫌だなと思ったら、違った。
しかし不思議な小説である。結局ここで死んでいく祖母は生物学上の祖母ではないのだが、その一方で、女性は胎児のころからすでに卵巣をもっていて、という話が途中に出てきて、それがその後も何度か言及される。本当の祖母の腹のなかに母が胎児としているときその胎児のなかに自分も居たのだ、と。三人が一体だったのだ、と。
ならば生物学上のほんとうの祖母に拘るかと思いきや、いやそんなのは問題ではない、いま死んでいく祖母とはそれ以上のつながりがあったのだ、というところに落ち着く。これが文章として、あるいは祖母を見取る母の描写とともに語られ、その場面では、それなりに説得力を生じているから困る。
だったらなんで「子供が欲しかった」とか、胎児の頃の母のなかの自分とか、生物学的な血のつながりのことがいっぽうで大きな事として語られるのだろう、と。ラストにかけて転換点がどこかに、読解力のないわたしの読めないところにあったのだろうか。
またこの主人公の恋愛事情にもあまり感情移入できないし、高価な掃除機を買うのが彼の覚悟だったという理屈もよく分からないなあ、家電オタクだったかもしれないじゃん。というかこの男性の顔がよく見えないのだが。あと主人公がシオノさんの正体に関して鈍感すぎるのも気になった。
そのいっぽうでところどころ説得力のある記述があったり、主人公の母親がなかなか魅力的だったりもして、評価に困るのだった。