『寒灯』西村賢太

芥川賞をとったわけだが、いかにもその受賞第一作という感じ。つまり踏襲作。
というかこの作家の場合は受賞何作だろうが、他の作家に比しても作風ががらりと変わる可能性は低いだろう。今回は年越しそばで揉めるのだが、同居女性はせっかくダシを丁寧に取ったくせに、煮てあるソバと揚げてある惣菜天ぷらを使ってしまう。
まあねえ、このくらいガマンしろよボケ、と言いたくなるがこれが言わば芸風だから。実生活でよい子の人たちがこういうワルが滅茶苦茶やっているのを読むから面白いんですね。
ところで例によって小説に関係ないところで言うなら、ソバに関する主張としては両者五分五分なんだな。まさかこんな所まで作者が計算しているとは思わないが、ソバ本体に関しては男の主張どおり乾麺の方が絶対的に旨いし手間もそれほどかからない。ただ天ぷらに関しては、素人が揚げるよりもスーパーの惣菜コーナーで買った方が、スーパーにもよるが旨かったりする。素人が家庭でやると油の温度が下がり仕上がりがべちゃっとなりやすく、また掻き揚げは厚ぼったくなったりしやすく、それなりの経験が必要だからだ。つゆに関しては、まあ定番といえばヤマサの昆布つゆか、ミツカンの追い鰹つゆということになるんだろうが、これらは化学調味料に頼っている部分があるとはいえ確かに旨い。とはいえ、天然で作るのもそれほど手間もかからないしだいいち香りが違う。よってこれは女性の勝ちかもしれないが、麺を乾麺にしなかったことの減点要素が大きく、単純に2対1とはならず。よって五分五分ということだ。
あ、念のため繰り返しておく。ここまで書くといかにも拘ってるふうだが、たかがソバごときで私は文句など言うことはない。