『イールズ播地郡』松波太郎

今号のすばるで一番面白かった作品(一番面白かった作品でもこの評価なのでまだ暫く買わないかな)。
今回の作品で改めて思ったが、この人はふだん小説など読まないであろう層の人々を描くのがうまいと思う。紋切り型でもなく浅くも無く、そこらにいそうだけど、しかし唯一無比な感じの人物がまた出てくる。
難をいえば非現実の世界の描写の方が多くて長くて、そこで出てくる主人公と選手やコーチ達とのとぼけたやりとりなど、この小説の面白みはここにこそあるのは確かなのだが、例えばこのゲームそのものの面白さが全くピンとこない人は途中で拒否反応を起しそうだ。あとゲームの最後のポーズが現実世界とかぶるところは良く出来ているなと思ったが、会津人のこだわりとかは要素としてはやりすぎかなあ。そんな人もまだ残っているのかもしれないけど、ちょっと遠すぎる。
夫と息子を交通事故で失うということがなんとか夢であって欲しいという主人公の思いは充分伝わってきて、胸を打たれる。