『何が俺をそうさせたか』星野智幸

『俺俺』は面白くて且つ力作、大型電気店の仕事などもよく取材してあって今もって傑作のひとつだと思う。だからこの作家にあれこれ注文したくない気持ちが先に立つ。がしかし。この小説のような手法、つまり現実を部分的にデフォルメしたりして、現実相似の亜空間を設定して、現実に対する鋭い批評的小説とする、ような方法は、もはや星野的には保守的な手法になってはいやしないか。
読んでいてやや退屈を感じたことは否めないし、しかも現実の高齢者に関する諸問題に、この小説が届いているかについても心もとない。これじゃただ、老人をもっと大切にしなきゃあかん、としか言えてないようにしか見えない。そんな事はモーターボート協会の会長だろうが、公共広告機構だろうが言えることだ。
この小説が攻撃する高齢者問題に無関心な人なんて、いま、むしろ圧倒的少数派だろう。新聞を一週間読んでみたらいい。高齢者関連の記事がほぼ毎日何かしらあるはずだ。なんだかんだいっても新聞はツイッターなんかより余程世の中の気分を反映しているから。ツイッターなんてのは結局忘却したふりができる場でしかない事はみんなわかって使っているのさ。
世の高齢者問題に関するスタンスはむしろ関心があっても手も足も出ないといったところだろう。老人なんて、自分の親なんて捨ててしまえるなら捨てたい?そんな人はいない。捨てたいと思うことができない所に、ついつい抱え込んでしまう所に、いまのもっともの悲劇があるのではないか。その親子感情の自然さこそ、撃つべきであって、むしろ老人なんか捨ててしまえと言ってしまうものとして、小説はあっていい。