『ハバナの夜』石黒達昌

この題名で医療現場のものとはなかなか想像ができない。題名であるとか、ラストでセミの泣き声で終わるところとか、いかにも風景を心象として描くありきたりな文学臭がしたりするところは頂けなかったが、なかなか読ませる一編。
謎解きはスリリングだったし、医療現場ならではのディテールも知らないものが近づける程度に詳しく、現代的な医療に関する問題もうまく反映されている。看護士が、唯一耳に残るナースコールから逃れられるのは病棟なのだという逆説など、想像だけではなかなか書けないものがあるだろう。
なかでも、警察の担当者になかなか陰影があって良かった。彼がいるといないとではずいぶん違ったのではないか。というのは、これは不満なのだが、主人公が結局はいいひとで終わってしまっているからである。ひそかに興奮するまでして謎を解いたのにあっさり反省し聴取したテープまで消してしまう。容疑者に、あれ?警察もうすうす気付いてるからと言われて告白したのに自分の医療ミスを問われないのはどうして?と思われる危険性はないのだろうか。そんなことも気になってしまった。