『尋ね人』古井由吉

題名はただの尋ね人だが、今回は、記録的な暑さとともに先だって話題になった行方不明高齢者の話題が小説に取り込まれていて、時事的な小説である。意識の底をさぐるような、というより意識そのものを作り出すかのような丹念な描写は相変わらず。
かつて、戦後の混乱期には行方不明者が沢山いて、それを探すラジオ番組があったと追想するくだりの部分が面白い。一件伝えたその次の件にいく間になんともいえぬ間があったのではないか、と。ラジオを聴く人に想起を促すような間が。
この小説とは関係ないことだが、今となっては古臭くて言及すらされないメディアになってしまったラジオなんだけども、映像のない声だけというのは、負い目ではなくひとつの特徴ではないかと思う。