『きんぴら』広小路尚祈

うーむ。この人は以前はもっと小技というか、面白みのある文章を書いてくれる人だったのだけど、前作辺りから、うだうだとした一見下らない内省はそのままに、語りの面白さが減じているような気がする。
ちょっと妻に内緒な悪い事をしてしまったがゆえに今度は良い人間になろうとして、最初は善行をしようとして失敗し、今度は悪行を行ってこれまた失敗するのだが、そのじぶん理論の整合性にとまどってしまう。恐らくは、善行をなそうとしていた人間が一転悪行をなそうとする所が面白みなんだろうけど、そのとまどいが先走り、あまり面白くない。具体的に失敗するエピソード、さびれた飲食店に入って不味いメシを食うとか、ギャンブルで儲かってないオヤジの逆やって失敗するとか、もそれ自体の面白さを狙ってるのかしらないが正直面白くない。
最後にはうまいきんぴらが灰汁を有しているが如く、自分の家族のために利己的にちょっと悪く生きていこうとするのだが、説得力がない。説得力というのは読んだ人間もそうしよう思うという意味ではなくて(それを言うならこの主人公には反感しか覚えないのだが)、一人の人間がそこへ至った事が分かるか分からないかという所なのだが・・・・・・。なんで家族がそんなにまでして重要なの?という。