『陽だまり幻想曲』楊逸

古き良き文学といえば、まさにこれもそう。たんに主人公が妄想しすぎてしまいましたというオチ、つまりは孤独が内面を肥大化させてしまう様を描き、その想像世界の描き方や出来栄えで勝負するような、いかにも「純」文学的なものではなく、隣で虐待が行われたというふうにきっちりお話を作る。主婦が誰かに語って聞かせるかのようなその語り口がきれいに統一されていて上手さすら感じたがゆえに、普通と評価してみたが、面白さを感じる点は殆どない。
それにしても専業主婦がさしたる困窮もないのに思いつきのようにパートを始め、またその仕事がたんなる電話番的な楽なもので、というのは、まあそういう事もこの世界には充分ある事なのだろうけど、ちょっと入り込めない。何でもかんでも文学は辛さを描けというのではないが。また、最初の舞台設定ということでいえば、こんな楽な仕事を簡単にゲットできたのなら、そのために引越しまでして拘泥するものだろうか、と思ってしまう。職場に近い所への引越しが物語の端緒なんだけど、あっさり獲得できた仕事なんか、子育てと両立するのが難しかったらあっさり手放してもおかしくないのではないか。語り口の滑らかさにくらべ、物語のとっかかりがどうにもぎこちない。