『真珠譚』諏訪哲史

会話を「」で囲ったりすることや、「、」「。」などの句読点を追放した、小説。
小説というか、想念をずっとつづった感じのもの。在りし日の恋を追想するときには、恋の追想というより、その人を想っていながら、その人がいたときの自分のまわりの風景を想っていて、記憶を呼び覚ますことじたいの甘さに溺れている。そんな様子が良く出ていて、たしかにその頃のバスルームを描いたところなどは、鮮烈な光が読むものにも訪れる。
ただ、遺跡やクレーターなどの話を織り交ぜて、その話じたいは変化も与えているし面白いものの、それと己の過去との重ね合わせがいまいちピンと来ないのであった。
この記述の仕方も、やや退屈といえないこともない。ただそれは、ごく普通の文章の記述(の自然さ)がいかに我々を知らず蝕んでいるか、ということの証明にすぎないわけで、退屈に感じることは悪いことではない。