『103号室の鍵』茅野裕城子

巧拙はともあれ、この号のすばるで一番記憶に残ってしまったので、面白いという評価にした。
どこがというと、今までの人生結局買い物だけなんじゃないか、という強烈にして正直で、またおそらくかなり正確に言い当てていると思われる過去の自分への総括だ。こんな独白は他では読めないだろう。
愛だの恋だのではない。また、哲学でも歴史でもなく、平等でも権利でもない。人間らしさだの、人間の奥底に潜むものでもない。なんと「買い物」。自分の人生は買い物ばかりが彩ってきたという・・・・・・。
だがしかし、この身もフタも無さが却って真実と思わせる。いや、身やフタがどうのこうのではなく、まさしく読んでいるこの私、わが身に照らしても真実なのだ。これは全く馬鹿にできない。出来ないどころか、やられた、という感じすらした。
この主人公と、買うものは全く重なっていないだろうけれど、私だってこんなふうに生きてきたに違いない。一方で、過去を想い、そして今これまでと全く違う岐路に立っている感じは、かなり重なっている気配がある。