新連載『わたしの彼氏』青山七恵

これを読む前に『新潮』の青山作品を読んで心証を良くしていたからだろうか。
必ずしもそうではないと言いたいくらい、これもまた楽しく読めたんだよなあ。結構これまで青山作品に対して冷ややかだった私は何故に変わってしまったのか。
先日なんとなく反省気味に考えていたのだが、一つ気付いたのは、これまでつまらないと評していた作品に関しても結構内容が記憶に残っているなあ、ということ。これは意外だった。
でよく分析できないながらも、あえて私が好きになった原因をこの作品から探るに、まず挙げられるのは「賢さ」が消えていること。名文的な文章はこれまでも彼女はあまり書いてこなかったと思うが、今作は短文中心で更にすっきりとした印象がある。情景の描写なども肝心な処にさらりと触れるだけ。凝った比喩もなし。一見単純に見える文章の積み重ねに見える。この作家は上手い、と簡単に思わせるような賢さがあまり無い。
しかしこれが誰にも書けそうなレベルに見えて、きっと無理なのだろう。筋には直接関係はないものの、作品を立体的に見せるための必要最小限の情景描写、登場人物の行動、その配置とその量が、真似できない丁度良い具合となっているのだろう。作品として有機的に完成している気がする。例えば、花瓶の底の汚れとか、いきなり「歯みがいてくる」と席外してしまう女友達とか。
またこの文章のテンポの良さは、主人公の内面のやや単純っぽい所とうまくマッチしているし、というか、逆にこの内面設定が先にあってのこの文章かもしれないが。この辺は、主人公が「私」という一人称で登場するわけではないものの、主人公の青年の視点で彼の内省に寄り添っている作品なのだから、当然といえば当然かな。
登場人物それぞれの勝手に世界観を作り上げている感じ(とくこの姉がいい)や、単純で淡白な男女関係・友達関係に思えるのに感情面では決してドライではない所なども、今、をうまく捉えているように思う。
最後にしてもっとも重要な長所を言っておくと、連載作品を盛り上げるべくこれからどうなるのか何が起きるのかと期待させるような「話作り」をきちんとしている所がポイント高し。
そして単にストーリーというだけでなく、例えば先ほど挙げた主人公の姉がきちんと「生きて」いるからこそ、彼女がどう反応していくか、興味が先へ先へと進むわけで、話とキャラもまた有機的に繋がっているのだ。