『下戸の超然』絲山秋子

この小説家は何度も何度も書くけど会話が良くて、徐々に二人の仲が離れていくあたりの微妙なすれ違い描写から、別れの場面までどうしても一気に読んでしまう。それだけの引力がある。
そしてきちんと読む人にこういう世界もあるんだという色んなディテール(パズルゲームなど)も用意されて、とにかくそれも手伝って、読んで損をしたという気がまったくなくなるのだ。(今作では、ボランティアというものに関する実はけっこう深い洞察もなされていたりする。)
読んでいる最中は、この女性の身勝手さばかりが目に付いてしまったが、よくよく考えれば、男性の側だって、男女の仲になっておきながらここまで女性の活動に理解を示そうとしないなんてあるかなあ、という感情が先に立った。これはこれでフリをするよりはある意味誠実なんだけど、潔癖すぎるというか。
しかし昨今の若い男性の自らを主人とする世界の構築の強固さから考えて、全く無いはなしでは無いな、と思い直した。
相手によって人生を狂わされなければ付き合う意味なんてないと考える私は、ギリギリのところで女性の側に立つ人間だが、この男性の、正当性という殻によって自分を守るというあり方にも、共感を覚えなくはない。