『ガマズミ航海』村田沙耶香

性に疎外感を感じる(それをほんとうに自分のものと感じない)若い女性が主人公で、この作家がずっと追い続けているもの。
主人公と、そのパートナーの女性とが試みる全く新しい繋がり方が、逆説的で、傍からみれば中々とんでもない事をやっているのだが、その事よりも私は、主人公が周りの女性と交わす何気ない会話のひとつひとつが好きなのである。たとえばこの作品で言えば、台所でオレンジをむいて、麦茶に入れてしまうシーンの会話のひとつひとつ。ここでは、ちょっと他人行儀を残しつつも自然と上に立っているようなざっくばらんさと、それでも知り合ったばかりという緊張感がうまく同居している。観察力鋭く、また感受性が高い作家であるからこそだろう。
そしてこのような会話を交わせるだけで、もうすでに半分くらいはこの二人はこの二人だけの繋がりを得ているのだ、と思う。