『自称林かのこ24歳』松井雪子

アイスクリーム工場で働く人を白いものたちと表現したりするところが松井雪子らしい。大きなテーマとしては、飼いならされるとはどういうことか、という事なのだろう。人になつかない犬と、体に記憶として残る昔の山姥(?)と、そしてマナー教室に通った自分自身と、それぞれが他人に溶け込めないものたちとして並行して描かれる。
話の展開とか、山婆の記憶の挿入のされかたとか、この人は技術的にはいつも上手いと感じさせる。今作は、せっかくそれらしき男を登場させたのに、終始主人公は傍観者でしかないのが不満。失恋した女性の乱れっぷりとかは面白かったのだから、いっそのこと、徹底的にリアリズムでやってみても良かったかもしれない。それに、犬か、山姥、どちらかはいらない、という気もする。また、アイスクリーム工場で単純労働しているのならば、もう少し何かしら心を揺さぶるものが出てくると思うのだ。もっと心をヒリヒリさせて欲しいし、この人ならば出来ると思うのだが。