『ディヴィジョン』奥田真理子

読んでから暫く経ってこれを書いているが、見事に人物が残っていない。語り口の奇妙さが無ければ、おそらく読んでいて退屈極まりなかっただろうな、と思う。というか、語り口が奇妙だったことさえ残っていればいい、という事なのだろうか? たしかに、リズムが上手くはまっている文章が数箇所あり、ああ何か日本語の持つリズム感みたいなものを取り戻そうとしているのか、と好感を持てそうと思いきや、突如として別のリズムに変わり、切断されてしまう。なんか言葉をもてあそんでいるかのようで、それは作者のモノでしかないような感じすら抱く。
テーマ的なことでいうと、"ゆずる"との関係がずるずる続いている事もまったくぴんと来ないし、母親をなんでこんなに苛めるのかもさっぱり分からない。
猿毛とか癇癪が、なんのため持ち出されたのか、ポイントポイントで何か重要な機能をはたしていたのだろうか?思い出せない。人生に必要なもの、といって挙げられるものに面白みもなく、ときおり露悪的に描写される小動物の死骸なども、露悪として徹底したものでもなく、読むものに嫌悪感を及ぼすほどのものもなし。
題名が意味するところがまったく掴めないところが、この作品を象徴しているのかもしれない。統一感はあり、新人として評価すれば力作なのかもしれないが・・・・・・。