『実験』田中慎弥

この作家は、とてもゆったりしてはいるけど、徐々に徐々に良くなってきているような気がする。
意図的なものなのかどうか知らないが、今作は笑える箇所も数箇所。『「セックスだって好きなだけ出来るし」言っていて猛烈に虚しかったがどうでもよかった』のあたりとかは特に。
解釈としては実験相手が自殺が止まってしまったのは、虚ろな夫婦関係を目にし、自らの病を相対化できたからだろうが、ある意味、妻との食事に連れ出すことができたというのは、うつも軽度になっていたのであろう。それまでの主人公の実験計画(うつの人を励ます)が、主人公が発する言語を抑えきれないことによって会話が制御され得なくなり、実験相手のセラピーとして機能してしまったというところか。