『この世は二人組ではできあがらない』山崎ナオコーラ

そのときどきの心情をメモにでも残しておいて、ただ繋ぎ合わせるとこういう小説ができるのかもしれない。矛盾したかのような心情の記述がなんのてらいもなく吐露されるからだ。
そういう意味では、つまり我々の日々の暮らしのなかで感じる様々なことは小説のように統御されたものではないという意味では、リアリティがある小説だし、読んでいて、ああ、こんなもんなんだろうなあ、とも思う。同世代の女性ならばなおさら共感を覚えてしまうかもしれない。
しかしラストで示される、この中学生めいた結論には、正直ついていけないなあ。もう特定の彼氏なんていなくっても良いというこの余裕には。というか、他人のちょっとした労りを最大限の善意をもって迎えることができる、そういうコミュニケーション能力が知らず知らず主人公のなかで育まれているだけで、それを上手く育てることが出来なかった奴のことも私は考えてしまう。
いくら失恋してひどく痩せたところで、まだ職場の同僚などの他人が意思持つ他者として見えているうちは、それはまだ徹底した孤独、徹底した自家撞着に届いていないのではないか。本なんてどうでも良い、何もしたくないのだ私は、というのがたいていの場合スタートなんだと思う。むろん今ある幸せを捨ててまで、この主人公が無理にそこに立つことは無いのだが。