『遠い真珠』谷崎由依

所々に良い文章が散見されるけれども、それを除けば、デビュー作の鮮烈さから後退している印象は否めない。
今作で致命的だと思われるのは、主人公が話を聞く相手の二人の女性が少しも魅力的ではないところ。こんなスノッブな人たちの過去などあれこれ聞こうなんて読んでいて全く思えないだけに、主人公の行動が途中からリアリティを失っている。
細かい事をいえば、登場の仕方もいやらしい。主人公が尋ねていったら、最初は全く気付かないようすで、いざ話しかけようとしたら、いきなり「朝からあの調子」と庭先の花に言及したりする。何この人格好つけているのだ、という。この、何故だか分からないけど分かってますよ、みたいな態度が受け付けられない。
例えばこういう人と間違って付き合ったりすると、別れ話でも
「なぜだか分からないけど、今貴方と別れるのが正しいことだ、という気がするの」とか言ってきたりして、決して具体的に理由を教えたり、その解決になど当たろうとはしないに違いない。そこで無理にでも理由を探す、あるいは言ってあげることが倫理(他者と向き合うこと)であって、自分の感覚に従うことが倫理だとするような人とは相容れない。