『スリナガルの蛇』横尾忠則

とりあえず最後まで読ませて頂いたという感じ。最初神秘嫌いとして描かれていた人物がいつの間にか神秘的な行為に没頭しだすこの矛盾に対してなんの契機も説明もない。かといって徹底的に物事に流されていくという気概があるわけでもない。というのは、乞食に金を渡すか迷うところや、東京を中国と思われてしまうあたりで分かるのだが、「日本人」という観念が全く疑われていないからだ。つまりは自分が日本人であることを捨てる気など全くないわけである。「人間」というものを疑うのが超越体験なのに「日本人」すら疑わない、この俗物ぶりはなんなのだろう、と思ってしまう。むろん世の中にはそういう浅い人も沢山いるのだろうがしかし。
インドでの宿泊施設のあたりの光景の描写だけは良かったように思う。