『イタリアの秋の水仙』辻原登

全くのフィクションではなく現実を織り交ぜ、別のひとつの平行世界での出来事を読んでいるかのような気分になる。どこまでが現実なのかなこれ、と読みながら考えるのも面白いが、問題は、中国共産党の弾圧や毒カレー事件を思い起こさせるだけではなく、それらに対する批評であるかどうかではないか、とつい私などは考えてしまう。非常に良く書けてはいるものの、あまりこちらの現実が揺らいでこなかったりもするのだ。
比べて橋本治の小説などは、これはちょっと上手く言えないんだけど、あれもフィクションながら、読んでいて紛れもない現実を突きつけられたような気がして、それがかえって今の現実を揺らがせるんだよな。「いま」も「歴史」のうえに乗っかった相対的な対象のひとつと感じられてくるのだ。