『湖面の女たち』鹿島田真希

精神を冒され失職状態にある男の主人公。導入部はちょっと謎めいていて、いつもの鹿島田とは違うのかなと期待しつつ読むも、途中から「出来事」が後退し、思弁が中心を占めていく。いつもの鹿島田世界みたいになってしまっている。好きな人はこれでいいのだろうが、少し私は複雑だ。読者獲得の広がりに欠けるきらいがあるからだ。
性犯罪の被害者について、被害者自身にも責任があるみたいな言い方は、公的な場では禁忌であって、純文学しかおおっぴらにはこんな事書けないだろう。と、そんな文学の存在意義も感じたが、読みながら思うのは、こういう思弁的世界の古くて、しかしいつまでも古くならないなあ、ということ。近代的自我の原初的な有様が再現されているような気分になってしまうのだ。そしてそれは決して逃れられないふうに、私達を形作っている・・・・・・と。
同じ人間ではあるがしかし、「女性」には異物を感じざるを得ない、そんな男性にありがちな心情がよく描かれていると思う。